2023年新作映画ベスト10&ワースト5大発表

映画、観てますか? 観てませんよね。年の瀬に今年観た映画だのを発表してる奴はゴミなので近寄らないようにしましょう。
ということで、今年観た新作映画のベスト10を発表していきたいと思います!
なお、一部の映画のタイトルは私個人の思想に基づき、邦題ではなく原題に近い記法を用いることをご了承ください。

 

ベスト10

1位『ゴジラ-1.0』
実写作品としては『シン・ゴジラ』以来7年ぶりの待望の日本版ゴジラ
山崎貴監督ということで「泣かせ」のイメージが先行しており、『シン・ゴジラ』で上がりきったハードルをリセットするような、60点か70点のやつが出てくると覚悟していたが、100点でした。感動を封印するわけでもなく、「山崎貴の感動」をそのままゴジラのドラマパートに乗せることで、「ゴジラと主人公を対比させる」という、ゴジラシリーズが70年間苦心し続けてきた要素に、自分の武器で正解を打ち出す。
幾度となく議論されてきた「ドラマパートいらない問題」を解決しただけでなく、CGのクオリティも日本映画では考えられないほどで、特に海上のシーンを昼間にあそこまで作れるというのは本当にすごい。そもそも特撮――特殊撮影というのは実在しないものをリアルに描くために生まれた技術なので、ハリウッドでは当然のように特撮がCGに置換されてきた。それがようやく日本でも、山崎貴なら「特撮」を使わずにかつての特撮が表現したものを作れるんだ、と胸が躍った。

 

2位『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』
『貞子vs加椰子』以来、大手配給で撮り続けてきた白石晃士監督の、8年ぶりの新作にして完結作。
白石作品は、特に<コワすぎ!>シリーズは暴力描写に定評があるが、本作ではハラスメントを糾弾される時代にあって、暴力は封印される。そしてこのメッセージ性が根幹をなし、より強い恐怖を描いている。
8年前の『超コワすぎ! FILE-02』までに積み上げられた伏線は回収されないまま、前作までとは繋がりのない単独の新作でありながら、過去作全てを内包した設定。そして『カルト』や『オカルトの森へようこそ』といった投げっぱなしENDの作品の“その先”を描く内容。ファンの望む全てがそこにあった。

 

3位『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
異なるアニメの技法を一つの画面に収めるのは前作から変わらず、シーンごとにタッチを目まぐるしく変え、それをただ追うだけで楽しい。一瞬たりとも脳が休まることがなく、アニメーションの奔流に呑み込まれる。
描かれるドラマもより重厚になり、冷たく悲しい。単独で完結していた前作から、実はそこが伏線だったのか、というシーンがあるのもワンダー。そこで描かれるのも普遍的なテーマで、万人の感情移入を許す。

 

4位『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
オフィスのデスクの下にくっついたガムを食べるとか、とにかくバトルが馬鹿すぎる。あまりに乖離しすぎると今度は理解が及ばなくなるので、ギリギリ理解の範疇で最大までふざける。普通のアクション映画はシチュエーションや殺陣の組み立てで「次はどう来る!?」と身構えるものですが、本作に限っては「次はどんな馬鹿なことをする!?」と楽しみになり、どんどんめちゃくちゃになっていくのがその期待を超えてくれる。
それでいてやっていることは王道のSFで、SF設定も立て付けは格好いい。描かれるドラマも家族愛に結実し、きちんと泣かせてくる。それなのに結局のところおばさんと小太りの少女の馬鹿げたバトルというルックスが、泣かせ感を中和して、ただひたすらに笑わせてくれる。石のシーンは他の映画ではできない演出で、最高。

 

5位『窓ぎわのトットちゃん』
シンエイ動画の繊細なアニメーションはリッチで、アニメ映画の幸せが詰まっている。トットちゃんの空想は絵本のようなタッチで描かれて、複数の絵柄が使い分けられ、「和」や「田舎」以外の共通体験として日本人の心を映し出す。
優しい日常を切り取ったものだと思っていたら戦前から戦中が舞台で、ストーリーは特に後半は重いものだったのが意外だった。トットちゃんの目線で描かれるため、戦争はほとんど直接描かれないのに、銃後の描写だけで強烈。驚くほど台詞で説明しないのもすごくて、あらゆるシーンは受け手の解釈に委ねられる。子供に考えさせることで正しいものを学ばせる姿勢と、現代では失われたものを描き継承する方針がよかったです。

 

6位『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー Vol.3』
フェーズ4以降不調続きだったMCUですが、過去二作同様、最高。
ガモーラの死によって停滞したGotGシリーズだが、本作のテーマは変革。GotGのメンバーは、成長し、変わっていく。お祭りは永遠に続いてほしいけど、人生にはいつか終わりが来る。寂しいけれど祝うべき門出が描かれる。
ストーリーはかなりヘビーで、それを吹き飛ばすかのようにアクションは爽快。このヘビーさが次回作以降にも効いてきて、MCUの一作としても機能しているのも嬉しい。

 

7位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
白人によるオセージ族殺人事件を3時間半の長尺で描き切る。
恐怖を駆り立てることなく淡々と次々に起きる殺人は、それが当然かのように過ぎ去っていくのが何よりも恐ろしい。加害者として加担することになる主人公は、家族思いで間抜けで、それなのに殺人を厭わない、愛される人としての面と殺人者の面、おじきに支配される面が同時に描かれる。
オセージ族の衣装や儀礼といった美術面も素晴らしく、これらを美しく描くからこそ白人に滅ぼされた悲しみが表現できている。興亡を切り取るギャングものはどうしても尻すぼみになりがちだけど、本作ではそこに自覚的に向き合っている。

 

8位『ザ・クリエイター/創造者』
ロードムービーのSFで、アジアをミックスしたサイバーパンクとも異なるロケーションが魅力的。模造人間(シミュラント)と呼ばれるロボットは、人間型は顔は人間そのままなのに後頭部が刳り貫かれた形状で、一目で異質と分かる。機械頭のシミュラントは<スター・ウォーズ>シリーズのドロイドのような愛らしさがありながら、タイ風の袈裟を着ていたりと独自性もある。
東南アジア、ネパール、中国、日本なんかをごちゃまぜにした舞台・ニューアジアはリアルな生活感があり、この世界観だけで満足度は高い。それら全てを破壊する無慈悲な銃撃戦も楽しい。

 

9位『SISU/シス 不死身の男』
「殺人マシン」ものの亜種なのに、敵は一切舐めてこない。最初から全力で、たった一人の老人にいきなり戦車をぶつけてくる。でも勝つ。そして殺す。
主人公は「不死身の男」ではあるけど最強というわけではなく、いい感じのバランス。敵対するナチス小隊も台詞がほとんどないのにちゃんとキャラを立たせてから殺される。用意された武器やシチュエーションを全て使い、アクションとゴアのアイデアを使い倒す。ゴア描写は初殺の時点で笑えるほど痛々しく、とにかく肉片が飛び散って景気がいい。

 

10位『ミンナのウタ』
そこそこの面白さの<村>シリーズを連発して、なんとか中田秀夫にだけは勝ってきた清水崇。しかもGENERATIONSを使ったアイドル企画のホラー。アイドルのファン向けの最低限の出来になるんだろうと思っていたら、意外にも面白い。
ちゃんと怖いし、カセットテープを題材にすることで使えるテクニックを全て取り入れる。手抜かりは一切なく、映画を面白く、怖くするためにできることを全てやってくれている。現代で再流行しているホラー映画だけど、そのほとんどが若手女優を使ったもの。そんなな中で大の男たちに怖がらせる時点で企画は成功といえる。
日本版ではグロ描写は削除されているが、それなのに不満はなく怖くて面白い。海外版BDが出たら解禁版を観たい。

 

1位『ゴジラ-1.0
2位『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!
3位『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
4位『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
5位『窓ぎわのトットちゃん
6位『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー Vol.3
7位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
8位『ザ・クリエイター/創造者
9位『SISU/シス 不死身の男
10位『ミンナのウタ

 

ワースト5

『Pearl パール』
当時の映画をオマージュしているのは分かるが、展開まで当時のレベルのままで何のひねりもなし。悪い意味で全ての展開を予想できてしまう。観客の思考へのメタがなさすぎて、最新作として観る意味が感じられなかった。お洒落な映画が好きな人間はこういうのが好きなんだと思う。ラストはよかったが、その数分のために100分を無駄にするくらいならYouTubeで1分くらい見たらもう充分かなという感じ。

MEG ザ・モンスターズ2』
そこそこは面白いんだけど、そこそこ面白いだけ。巨大生物のパニック描写はハードルを下げたので観たかったものは観られたけど、とにかく演出が古い。前作からしてそうだったが、中国のセンスであらゆるシーンが撮られるので、ルックスは最低限ハリウッド級なのに、10年か最悪20年古いユーモアをぶつけられる。とはいえそこそこを求めていったので、期待には応えている。

『アステロイド・シティ』
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』が最高に面白かったので期待していたんだけど、描きたいモチーフがそこまで刺さらず、そこが外れたのでそれ以外の部分もそこまで……という感じだった。

禁じられた遊び
ファーストサマーウイカを起用する時点でやる気は一切ないんだけど、案の定。説明台詞だらけで不自然で、感情のこもっていない登場人物。再現ドラマレベルの屋内。実在感も生活感もないので感情移入できず、何が起こっても怖く感じられない。時系列も整理されておらずぐちゃぐちゃで、その入れ替えがギミックになっているといったこともない。『事故物件 恐い間取り』は一転突破の糞でそこをネタにできたが、こちらは満遍なく全てが糞なので笑うことすらできない。

『リゾートバイト』
原作を改変すること自体は面白ければいいんだけど、登場人物に女を入れている時点で配給都合すぎるし、改変によって面白くなっていない。原作は「普通に見える女将さんが」「日中に」「変わった場所で」やることが逆説的に恐怖となる、いわば“ケのホラー”なんだけど、それをやる実力がないから逃げたのか、「異常な女将さん」と「深夜の暗闇」に「禍々しい場所」になっており、怖くされているせいで逆に怖くない。とにかく原作にあった旨味の全てを殺しているし、それによってより面白くなっているということもない。洒落怖ユニバースをやりたかったのは分かるが、原作の面白さを潰してまでやることとは思えなかった。ラストはやりたいことは分かるがかなり唐突だし、アイデア先行すぎる。

 

ということで、今年は新作を53本(うちホームメディア15本)観ることができました。
去年くらいからBS・CSやVODで新作が年内に放送・配信されることが増え、田舎住みには嬉しい限りです。映画メモを見ていると、チェックしていた観たかった映画のうちかなりの数が安価な媒体で観られるようになっていて、実際に何本も観ることが叶っていました。
次は鑑賞総本数、観てよかった旧作、観たかった(まだ観られない)映画をまとめたいと思います。