【寝取られ小噺】毛床の猟

 李小男という者、妻と二人暮らしていた。
 李の生業は猟であった。
 ふだんはその日食らう肉を求め山に入るが、正月が近く、妻へ品を買うため金が必要であった。そのため、いつも狙う兎や鹿と違い、熊を撃とうと考えた。
 熊を狩ることになったと妻に言い残し、李は一昼夜、山に籠った。
 李も、父親も、そのまた父親も、代々ずっと、鼻が利く。そのため、李は鼻を使う狩りを得意とした。
 獣道に落ちる毛を拾い、匂っては道を辿り、巣穴を見付ける。巣穴に落ちた毛を匂っては、動物の種類を見分けて狩りをした。
 李言うには、兎の毛は見た目も白いが、匂いも白い。この他にも、草花のことも匂いで分かった。
 李は鼻を使って夜のうちに熊を殺し、その巣穴で一夜を明かした。
 次の日、人里へ行き熊の肉と皮を売り、妻への品を買い、帰路へ着いた。
 日が暮れ始めたころ、李は家へ戻った。その日は残った熊の肉で鍋をし、李と妻の二人で食べた。
 その日の夜、李は久しぶりにまぐわおうと考え、妻を求めた。
 ひとしきりの行為を終えたのち、布団に毛が落ちているのを見つけた。それを嗅ぐと、李のものでも、妻のものでもなかった。
 李がそのことを妻に言えば、李が熊を狩っている最中、別な男を家に入れ、まぐわいを行ったと白状する。
 李は体中の血が冷たくなったことを感じ、正月に妻へ渡すはずであった品のことを考えていた。